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2020.04.11

季刊誌Lifan

相続の何がどう変わった?vol.2

相続の何がどう変わった? vol.2

相続に関する民法等の規定(相続法)が大きく見直され、順次施行されています。今回は、前回の記事掲載以降に施行された新たな改正法について触れていきます。紙面の都合上、ポイントとなる点に絞って言及しますので、細かい点や例外には触れることができません。ご興味のあるトピックについての詳細や条件などは専門家にご相談頂く等のご対応をお願い致します。

1.配偶者居住権の新設(2020年4月1日施行)

相続開始時に被相続人所有の建物に配偶者が居住していた場合に、配偶者居住権を取得することにより、住み慣れた家でこれまでどおり暮らしながら、生活資金としての預貯金等の遺産を一定程度確保できる権利を配偶者居住権といいます。別に配偶者「短期」居住権もあり、後述します。まず配偶者居住権について、例えば3人家族(夫・妻・子)の場合で考えてみましょう。民法上、この場合の法定相続分として妻・子それぞれ2分の1ずつの割合で相続権が発生します。多くの場合は、遺産分割協議によって、「誰が・何を・どれくらい」引き継ぐのかを決め、妻が法定相続分以上の相続財産を取得することも多いと思います。夫が土地・建物、預貯金を残して死亡した場合、妻が亡夫の所有であった土地・建物を引継ぎ、加えて預貯金の全部または一部を相続するケースも考えられますが、事情により法定相続分で分けなければならないケースもあります。そのような場合、妻が不動産を相続すると、期待できる預貯金の取り分は少なくなりますが、配偶者居住権を使用すれば、子が不動産を相続しても、無償で建物に住み続けることができ、不動産を取得しなかった分だけ多くの預貯金を相続して生活資金を確保することが期待できます。配偶者居住権の大まかなポイントは次の通りです。

1.条件

被相続人が単独で所有、または配偶者と共有していた居住用の建物。

2.方法

次の3つのうちいずれかの方法による
(1)相続開始後、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割があった。
(2)被相続人が配偶者に配偶者居住権を遺贈する(×相続させる)旨の遺言を遺した。
(3)被相続人と配偶者とで配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約をしていた。

3.期間

配偶者が死亡するまで。または、予め定めた期間があればその間。

4.費用負担

(1)居住建物の使用収益費用は無償。
(2)居住建物の保存に必要な修繕費等の通常の必要費は配偶者が負担。
建物の固定資産税も配偶者負担だが、所有者に納税義務があるため、
所有者は支払ったあとに求償できる。

5.その他

第三者には配偶者居住権の設定の登記することで、その権利を主張できる。

 

2.配偶者短期居住権

これは、残された配偶者が、事情により住んでいた家を出ていく必要がある場合に、最低でも6か月間は無償で住み慣れた住居に住み続けることができる権利です。配偶者短期居住権の大まかなポイントは次の通りです。

1.条件

被相続人が単独で所有、または共有していた居住用の建物に配偶者が無償で居住していたこと。前述の配偶者居住権と違い、共有の場合の相手は配偶者に限らない。

2.方法

条件を満たせば、自然に発生する権利

3.期間

(1)居住建物を共同相続人間で遺産分割する場合で、配偶者もこれに参加できる場合、最低でも相続開始から6か月は居住権を保障する。それまでに居住建物の承継者が確定していなければ、確定するまで居住権は存続する。
(2)(1)以外の場合[例:配偶者以外への遺贈・死因贈与など]配偶者の居住建物の承継者が決まったあと、その承継者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れてから6か月経過するまで存続。

4.費用負担

前述の配偶者居住権と同じ。

5.その他

(1)登記はできない。
(2)配偶者居住権が成立する場合には、配偶者短期居住権は成立しない。

3.自筆証書遺言書保管制度(2020年7月10日施行)

遺言書を作成する場合に、最もメジャーな方法のひとつに自筆証書遺言があります。作成時の手軽さというメリットを持つ反面、その作成方法は法律で厳格に定められており、遺言者の死亡により遺言書を使用するには家庭裁判所で検認手続きも必要です。また、紛失や相続人による改ざん、相続人等に発見されないリスクもありました。そこで今回の改正では、このようなデメリットを解消するために、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管する制度が創設されました。この制度の注意点としては、検認が不要にはなるが、遺言の内容の適法性・有効性までは保証されないことや、相続開始後の書類準備等の面で必ずしも負担が軽減されたわけではないという点が挙げられます。自筆証書遺言書保管制度の大まかなポイントは次のとおりです。

1.遺言者の遺言保管手続き(有料)

(1)決められた様式と添付書面が要求される。
(2)管轄あり。(遺言者の住所地・本籍地・所有不動産所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局))
(3)本人が出向く必要あり。(保管申請・本人確認・形式審査を行うため)
※遺言書の外形のチェックのみ。遺言内容が適法・有効かまでは見ない。相談も不可。
(4)保管後、一定の事項に変更があれば届け出が必要。
(5)保管の撤回は可能。保管の撤回後もその自筆証書遺言自体の効力に影響なし。
(6)保管遺言書の閲覧可能(原本の閲覧またはモニターによる閲覧)

2.相続開始後の手続き

(1)遺言者死亡後、相続人・受遺者・遺言執行者等ができる請求手続き。(いずれも有料)
ⅰ.遺言書内容の確認→「遺言書の閲覧」の請求。(原本の閲覧またはモニターによる閲覧)
ⅱ.遺言書内容の取得→「遺言書情報証明書」の請求。(検認不要で手続きに利用可)
ⅲ.遺言書保管の有無を確認→「遺言書保管事実証明書」の請求。
(2)上記以外の者でもできる請求手続き。(有料)
ⅰ.遺言書保管の有無を確認→「遺言書保管事実証明書」の請求。

3.補足・注意点

(1)これまで通り自筆証書遺言を自宅等で保管する方法も依然として有効。
(2)「遺言書の閲覧」や「遺言書情報証明書」を請求するには、法定相続情報一覧図または遺言者の出生から死亡までの全ての(除)戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本等の提出が要求される。
(3)遺言書原本の閲覧と保管の撤回以外の手続きは、全国の遺言書保管所で手続き可能。
(4)保管の撤回をした場合を除き、遺言書の原本は返って来ない。相続開始後の諸手続きは「遺言書情報証明書」によって行う。

 

 

執筆者プロフィール

[司法書士] 由宇 宏崇
兵庫県司法書士会(登録第1756号)
昭和53年生まれ
平成22年 司法書士の資格取得
神戸市内司法書士法人勤務後、平成25年 由宇宏崇司法書士事務所開設